事例詳細

調査・質問内容

人面墨書土器とはどのような土器なのか知りたい。

図書館からの回答

公開日 2022/01/26

人面墨書土器は墨書人面土器ともよばれ,素焼きの土器の側面に眉・目・口・鼻・ひげなど顔のパーツが描かれたものです。人面は1つの土器に2面描かれることが多く,1~8面が描かれたものもあります。
描かれる顔の表情は様々で,同じ顔はほとんど見られません。多くはどんぐり眼やつり目でおおきな団子鼻を持ち,怒ったような顔つきです。ひげを描かれたものが多いため男性であることがうかがえ,疫病神や鬼とも,描いた本人の顔とも言われています。

河や溝など水に関する場所で多く見つかっていることから,甕(かめ)形の土器の中に息を吹き込んで穢(けが)れを封じ込め,川に流して穢れを祓うといった祭祀で使用されたと考えられています。また,皿形などの人面墨書土器には供物を入れて疫病をもてなし,都への侵入を未然に防ごうとする祭祀や,延命や招福を祈ったりするのに使われたとも考えられています。
平城京,長岡京の遺跡で多く見つかったほか,東北地方から九州までの役所であった遺跡を中心に出土しています。

平安京では出土例が少なく,平安時代末には消滅したと考えられますが,近年の発掘調査で平安中期ごろの遺跡から見つかった人面墨書土器は,鬼が出入りするとされる東北の角に鬼門除けのために置かれたと見られ,現在でも京都でみられる鬼門封じの風習の最も古い事例ではないかと考えられています。

参考文献(新聞):『京都新聞 令和3年(2021)6月25日』朝刊27面 “京で最古?「鬼門除け」 中京の貴族邸宅跡 平安中期の「人面墨書土器」 寝殿造で禁忌回避目的か”

参考文献

タイトル 注記
歴史考古学大辞典 p641“人面墨書土器”
日本古代史大辞典 p581“墨書人面土器”
日本考古学事典 p807“墨書人面土器”
図説平城京事典 p309“墨書人面土器”
日本の美術 No.361 まじないの世界 p60~70“墨書人面土器”
まじないの文化史 p52~56“顔が描かれた,人面墨書土器”
つちの中の京都 1 p53~54“27 いろんな顔が大集合 -長岡京の人面墨書土器-”
水垂遺跡 長岡京左京六・七条三坊 京都市埋蔵文化財研究所調査報告 17 巻首図版2“遺物(長岡京期)”,p108“3 長岡京期 (3)祭祀 1)人面土器について”,図版63~68“遺物(長岡京期)”,図版150~155“遺物(長岡京期)”
平安時代の神社と祭祀 p368~406“奈良・平安時代における疫神観の諸相 -杯(椀)・皿形人面墨書土器とその祭祀-”
日本の信仰遺跡 口絵1“都人の穢と疫を流す”,p182~186“祓の流行① 平城京左京七条一坊”,p229~236“祓の流行② 長岡京左京七条三坊”

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